Re.(20) 人力で動翼は制御できるのか?

  • 投稿No.695 元投稿No.693 文系ちゃんさんへの返信
  • 投稿者:見学者
  • 投稿日:2022-01-12 09:59:16

 さきほど、大型機の整備士に確認してきました。
 747-300以降の整備経験を有している方です。非常に丁寧に解説してくださいました。

 まず、前提となる条件で、大型機である747は、「緊急時に人力での操縦を前提としておらず、すべて油圧アクチュエータがこれを司る」ことになっています。

http://imepic.jp/20220112/341600

 この図のとおり、「入力装置」→「ケーブル」→「アクチュエータ」→「エルロン」が接続され、同時に「人工感覚装置」「オートパイロット」がアクチュエータに接続され、アクチュエータの動きが人工感覚装置により、入力装置にフィードバックされます。
 「オートパイロット」有効時、入力装置からは手を離しますが、実際にはどのような操作を行おうとしているかを示すために、入力装置にフィードバックされるため、制御状況がわかるように入力装置が動きます。
 ここに力を加えることでオーバーライドすることもでき、そうするとオートパイロットは、一定以上の力がかかると動作を中止することになります。

https://patents.google.com/patent/JP2000159195A/ja

 説明に使用したのは、747の「メンテナンス」マニュアルで、会社によって書式が異なるので、機密扱いでここには貼れませんが、公開されているものもあるので、探してみてください。
 入力方向は、「入力装置」と「オートパイロット」がアクチュエータ方向へ、「人工感覚装置」が入力装置方向へ出力します。
 この入出力は、「油圧アクチュエータ」が正常に動作しているならば、すべて問題なく動きます。
 エルロンを動かしているのは、アクチュエータです。入力装置の入力は、単に信号を送っているだけで、ここにかかる重さは、単に人工感覚装置によって作られたもので、アクチュエータそのものの動作ではありません。
 しかし、油圧配管全損の123便は、アクチュエータが動作しないため、ここに接続されているエルロンが動くことはなく、エルロンの動きも、フィードバックされません。
 油圧がなくなれば、アクチュエータが動きませんから、エルロンは動きません。操縦輪を回そうがなにしようが、そもそも信号がアクチュエータに届いても、動作しないため、エルロンまで伝達することができません。
 747の安全神話は、「4つの油圧系統が相互にバックアップしている」ことによるもので、1つでも生きていればまだしも、すべてなくなることは想定されておらず、そのために123便は、操縦不能となりました。
 ラダーペダルも、エレベータも同じことです。

 では、「入力装置」は動いたのか、というと、装置そのものは動きます。
 動きはしますが、それはどの翼にも呼応しません。
 747とDC-10の油圧操縦システムは、ほとんど設計思想がおなじで、それゆえどちらも共通する部分がありますので、参照されてもいいでしょう。

 誤解されがちですが、旋回に必要なのは「機体を傾けるための最初の入力」だけです。ずっと操縦輪を傾ける必要はなく、旋回方向に入力し、ニュートラルに戻せば、機体は旋回姿勢をある程度維持します。
 逆に、ずっと入力を続ければ、ずっとロールを続けることになります。
 123便は、このロールさえ打つことができませんでした。
 したがって、CWPは機体制御に何の意味もありません。これが機体姿勢に変化をもたらしてはいませんから、操縦不能ということになり、意図した旋回、上昇降下は不可能です。

1/12 10:02編集追記
 大事なことを忘れていました。
「人力での緊急時の操縦が可能なのはシングルアイル(単通路)機までで、ダブルアイル(複通路)機の場合はそもそも重量や翼面の大きさからして、比較にならないほど大きくなります。
 旧来の大型機はすべて油圧がこれを司り、アクチュエータが動作させているため、ダブルアイル機ではフライトエンジニアを置いて、油圧状態の監視などを担当していたわけです。三人乗務でなくなったのも、当初はシングルアイル機からで、人力での操縦が可能だったことも、二人乗務への変更可能点に挙げられました。
 よって、この人力操縦可能かどうかは、機体の大きさだけではなく、アイルの数で区別することができます。」

結論
「アクチュエータが動かない以上、123便の場合、人力での操縦は機構上、不可能」。