墜落遺体
- 投稿No.4302
- 投稿者:安芸
- 投稿日:2025-11-11 07:38:21
川北宇夫著「墜落事故のあと」のP230-231に次の内容の記述があります
「(人体の耐衝撃性、)例えば前方方向の場合、20~25G程度の衝撃を受けても人は安全です。後遺症を伴うような傷もしません。」
この内容は、川北氏がNTSB(National Transportation Safety Board)の文献(原文)を確認されたものです。従って、30G程度の衝撃なら軽傷で済むことが想像できます。
ところが事故調は、NTSBの文献を参照しながら、20~25Gを人体が耐える限界と誤解し、報告書のP121~P122で次のように記述しています(一部を抜粋)。
『前方胴体内にいた乗客・乗員は、数百Gと考えられる強い衝撃と、前部胴体構造の全面的な破壊によって、即死したと考えられる。
後部胴体内にいた乗客・乗員のうち、前方座席の者は、100Gを超える衝撃を受けた可能性があり、ほとんどが即死に近い状況であったと考えられる。後方座席にいた者が衝突時に受けた衝撃は数十G程度の大きさであり、この衝撃によってほとんどが致命的な障害を受けたと考えられる。
本事故による生存者は4名であり、いずれも重症を負った。4名とも、後部胴体の後方に着座しており、数十G程度の衝撃を受けたものと考えられるが、・・・・・・・・奇跡的にも生還しえたものと考えられる。』
NTSB(文献)の記事を正しく理解すれば、後部胴体後方に生存者がいたのは「奇跡」ではなく、当然のことであり、墜落直後には4名以外にもかなりの生存者がいたことも証言されています。
事故調が生存者について、「奇跡的」と表現したのは誤りであり、この点を川北氏は厳しく批判しています。
事故調報告書の、後部胴体前方についての100Gを超える衝撃で「即死に近い状況」という表現も、後部胴体後方について「致命的な障害」という表現も、いずれも不適切です。
遺体の損傷のかなりの部分は、衝撃ではなく、破壊された胴体の破片などによる切断・圧迫・打撲による可能性が高く、救出の遅れが死亡者を増やしています。
生存者落合さんの証言によれば、墜落前の乗客の大部分は、上体を前に倒し、頭を下げた安全姿勢をとっていました。この状態で機体が機首から尾根へ激突したら、胴体中央部から前寄りの乗客はシートベルトが切れて頭から前方に突っ込んでいきますから、前方の座席などに頭をぶつけ、頭蓋骨が潰れ、頭を胴体にめり込ませ、頚椎が折れる、などの状況が起こります。その直後に、胴体が分解して広く散乱していく際に、乗客の身体もまた、胴体の破片と共に広く散乱したことになります。検視を担当した医師が「安全姿勢をとったために頭部を損傷した人が多くなった」と述べています。
川北氏が参照した上記NTSBの文献では、乗客が上体を起こしていて墜落して機首から突っ込んでいく場合、シートベルトが切れて身体は前方に飛んでいくと解説しています。
飯塚訓著「墜落遺体」のP58-59によると、完全遺体が492体、離断遺体が1143体、検視総数が2065体などと記されています。完全遺体は5体がそろっている場合ですが、頭部が下顎部だけとか手足の一部が欠けている場合も含まれ、5体満足は177体でした。死亡者520体から完全遺体492体を引いた残り28体は、身体の一部のみで身元確認されています。
バラバラに分断された遺体が極めて多く、それらの大半は身元を確認できなかったようです。
川北宇夫氏は、長女を日航123便墜落で亡くし、その後、シートベルトを2点式から3点式にする提案など、航空機の安全性向上のための活動をされています。
事故調報告書では遺体の損傷状況についての分析が極めて不充分であることについても、川北氏は批判しています。事故調報告書には多くの誤りや分析不足がありますが、この件もその一例です。衝撃がどのように発生し、どのように伝播し、どのように人体に影響するかは極めて複雑であり、事故調報告書のように短文で記述できる問題ではありません。
なお、事故調と川北氏が共に参照した文献は、Googleで「NTSB-AAS-81-2」をキーワードに検索すると、トップに表示されます。