Re.(20) 違和感

  • 投稿No.2540 元投稿No.2535 文系ちゃんさんへの返信
  • 投稿者:せきたに
  • 投稿日:2023-03-03 20:28:31

文系ちゃんへ

文系ちゃんからの質問
> 一点質問宜しいでしょうか? 
> 確か墜落後、見通しの良い山を目指して登っていき、あとわずかで見通せる地点に辿り着くという寸前に警察?によりそれより先に進むことを阻止され引き返しさせれれた といったような内容の話があったように記憶しております。
> その話の場所がどこでのことだったのか、また、その話の出典等、情報をご存じでしたら、お教え頂ければ と思います。

に対する答えは前回引用したところではなく、今回引用する箇所になるかと思う。

『疑惑 JAL123便墜落事故』(角田四郎著)
125ページ~129ページ

 (ガソリンスタンドから出て)ふたたび車を走らせながら、我々は口数少なく、しかし頭の中は二人とも同じ事を考えながら走っていた。
「今の話、本当だよな」

「間違いないな、時間的な記憶も確かだし」

 信じられない現実を耳にしてしまった気がした。清流、神流川に沿ってくねくねと曲がる道は、万場町を過ぎて、その曲がる頻度もどんどん狭くなり、中里村を過ぎるとついに一車線(両側)道となった。つまり対向車とは、すれ違い場所以外では通れない。それにつれて道は、片方は山の崖、一方は川まで10メートル以上の絶壁となった。

 この頃から我々と反対方向、つまり藤岡方面に向かう車とさかんに出合った。その多くは自衛隊のトラックであった。それはまるで戦場から引き上げて来るような雰囲気である。舗装は随所で穴があり、また途切れている。運転には相当の注意が必要であった。だが、景色は素晴らしく、空気もひんやりと澄んでいた。

 道がいよいよ険しくなった頃、川向こうの小高い所に上野村役場が見えた。乙母集落、村の中心地である。少し行くと右側に小学校とグラウンドが見えた。だが、それは小学校の風情ではない。軍隊野営地である。これが陸上自衛隊の救難最前線であった。役場の駐車場も機動隊の装甲車でぎっしり埋めつくされていた。いよいよやって来たな・・・・・・と思ったのは間違いだったことに、この先で気づくことになる。

 運転の修羅場はここからであった。道は増々激しく蛇行し舗装はもうない。左側の断崖は川まで20メートルを越えた。栖原集落を過ぎ、十石(じゅっこく)峠への別れ道を左へハンドルを切った。『これより先、降雨80ミリ以上、通行止』の大看板が目に入る。その先に久々に一軒の雑貨屋がある。そして道は二又に分かれていた。メインは右寄り真っ直ぐである。ここで初めて道に迷った。左の道は橋になっていて狭い・・・・・・。

友人が商店に走った。そして戻って来て「左、左・・・・・・」

しかし、左には小さな浜平鉱泉の看板があるだけ。それも朽ちて字が読めないような代物で他には何もないのである。「本当に左でいいの」といいながら橋に近づくと、「あった」地面から50センチ程の高さに幅15センチ縦30センチ程の板切れに『日航機現場』とだけ書いてあった。ほっとして、ふたたび走り始めたが、ふっと前方を見ると道路半分までせり出した機動隊の装甲車とその脇に白バイが2台とまっていた。私は思わず目をみはった。

 若い白バイのお巡りさんが二人、『止まれ』の合図をする。その場所は営林署の事務所になっていて、少し広くなっている。その駐車場に入るよう指示されて車を出た。

「どちらへ?」

「山、日航の現場です」

「御家族でも?」

「はい」

「この先はお断りしてるんですよ、あなた方の安全をお守りする役目がありますから」

「ああ、それでしたら結構です。覚悟はしてますから」

「いいえ、そんな訳には行かないです」

「じゃ、入ってはいけない法的根拠はなんでしょうか」

「それはありません。しかし、危険ですし捜査の支障になりかねないので、お断りしています」

 友人も少しムッとしながら「この山でいっしょに死んでやれるんなら本望だよ、あなたにはわからんよ、この気持ちは・・・・・・」

 私もたたみかけて「捜査の邪魔だというなら、我々はそれなりの装備はして来たので、2、3日山で捜査を手伝います」

 それまで黙って車のナンバーや中をのぞき込んでいたもう一人の巡査が大きな声を出した。「免許証見せて!」これには我々も無性に腹がたって来た。

「見せろと言うなら見せるが、何故こんな所で違反もしていないのに免許証を見るんだ、威圧して追っ払うつもりか」我々の抵抗はまだ続く。

「なにか違反を作り出して、追い帰すわけだな。あんた達の手帳も見せてもらおうか」

 先の巡査がもう一人を制した。私は免許証を出して「警察手帳を見せて下さい」と迫った。

「いや、まあまあ・・・・・・、免許は結構ですから、ともかくお引き取り下さい」

 もう一人の巡査は本当にイヤな男だった。こうしている間に、白バイのエンジンをかけて装甲車の後ろのやっと車一台分ほどあけてある場所に白バイをとめてしまった。おさまりかけた怒りはふたたび爆発した。

「あんたなにするんだ、道路封鎖なんていくら警察の人間でも勝手にできるもんじゃないことぐらい我々は知っているぞ。そこを今すぐあけろ、我々は話し合いに応じてるんだぞ」

「緊急の場合はできる」と吐き捨てるようにいった。

「どこが緊急だ、我々はなにも犯罪を犯してない一般市民なんだ。しかもここは公道であって、警察の道じゃない。おい、歩こう。ここから歩こう。遭難したら、この人達のせいだよ。車がだめなら歩くしかないよ」

「いや、ちょっと待って下さい。車も歩きもこまるんです」ともう一人が言う。そして白バイの巡査に何ごとか注意した様子で、道をふさいでいた白バイは除かれ、イヤな巡査も装甲車に入った。我々も一応、気を静めて、また話し合った。

「じゃ、今までに山に入った人はどうなの、説明して下さい」

 この辺から相手は低姿勢に変じた。

「それを申されるとなにも言えません。しかし、私達はあくまで皆様の身の安全を守る立場から・・・・・・」

 こんな会話が延々と続いた。やがて言葉もとぎれて我々も車の脇で二人で話した。

「強引に行くか、ひき返すか」

「ここまで来て帰るなんてなあ・・・・・・」

 山中深い所ではあるが、夏の日はジリジリと身を焦がした。

 ここでもう20分はやり合っていた。都計は午後1時10分を過ぎていた。我々は駄々っ子のようにその場に座り込み、途切れ途切れに話し合った。巡査は装甲車の中から、それとなく我々を見守っている。

※この後に起きた偶発的事象がなければ、おそらくはいつまでも上の膠着状態が続いたものと思われる。